2008 |
09,17 |
«.»
原稿しろよという話ですね。いえす、いえす…
続くようで続かない。
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再び眠りに沈みそうな目をこすりながら、覚醒しきらない頭で無意識に探るのは左側。けれど指先に触れる筈の体温は、いつまでたっても現れない。
――イギリス?
名を読んでみるけれど予測するまでもなく反応は返ってこない。当たり前といえば当たり前の話だ。けれどそれで納得して寝直す気分になるかといえばそうではなく。軽いため息をつくとともにアメリカは体を起こした。
触れたシーツはひんやりしていて、彼がつい先ほど居なくなったわけではないことを明確に示している。ぽっかり開いた隣はすうすうと涼しいばかりで、大きいなりをして情けない話だが急に心もとない気分になった。
そもそもイギリスは、特別眠りの浅い質ではない。ましてアメリカとともに眠りに沈むならば、独立前ならいざしらず今となっては、情事と睡眠はほぼイコールである。
がっつくな、と何度言われてもイギリスに触れた瞬間に感情を御せなくなる自分と、体力馬鹿めとフランスにまで揶揄されるアメリカの体力には当たり前に及ばないイギリス。情交は大抵において限界を訴える泣き声のイギリスのそれにアメリカが負ける形で終わり、つまり、散々に喘がされた彼はいつもまるで崩れるようにとピロートークの余裕もなく眠りに落ちるのは必然だ。
君が貧弱すぎるんだよ、とはアメリカの半ば本心からの言で、ふざけんなこのくそがきめ、というのがイギリスの弁。とはいえ紳士の皮を被ったエロ大使の名の通り誘われればえろいことが大好きな彼が本心から拒むことはアメリカの記憶する限り皆無といってよい程だし、うまく乗せればまま自分から第2ラウンドを要求してくるどうしようもない人なので一概に自分ばかりが悪いわけではないだろう。
――「セックスは勝ち負けや決闘じゃねえんだぞ」というフランスの心情がどちらにも伝わらな事態とがこの場合世の不条理という一言で済まされてしまうのかどうかはさておき、要するに、今日だって互いに会議をいくつも済ました手前、自然に目の覚めるような体力はイギリスに残らないはずだった。
(大体、さあ)
彼だって、十分に悪い。
あんな顔で泣かれて、こちらの頭がおかしくならないなんて無理に決まっている。笑われるって分かっていても冷静でなどいられるものか。余裕なんか、本当にいつだってアメリカの方がないのだから、一向気付かない彼が憎らしくて、自分の情けなさが悔しくて、けれど少しだけ嬉しいとも思う。まあ、そんなことは一人の時にでも鬱々と考えればいいことだが。
――どこ、行ったんだろう?
ベッドを降りて窓際に向かう。何となく、そちらから彼の気配を感じた。
庭に出たのだろうか。こんな夜中におかしなことだが有り得ない話でもない。思いながらカーテンを引いたところで、思いがけぬ明るさにアメリカは目を見開いた。浮かんだ中空の月が丸い。ああ。そうか、そういえば。
(フルムーン、か)
真っ黒の夜空に、不釣り合いなほど明るい満月は歌うようにきらきら光っていた。